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それから、長い歳月が流れたが、志貴皇子の時間は、あの嵐の晩に止まったままだ。
何度も春は廻ったが、共に喜びを分かち合いたい人間は、もういない。
翡翠の耳環くらい、どうしてくれてやらなかったのかと、幾度も幾度も悔やんだ。
雄高は彼の全てを、志貴皇子にくれようとしたのに。
血生臭い抗争を横目に見ながら、皇子はひっそりと生きた。
雄高を失って以降の年月が、彼の余生だった。
皇子は次第に、床に臥せるようになった。
典薬寮(宮内省に属し医療関係を管轄する役所)から馳せ参じた薬師(医者)は、志貴皇子の容態を診て沈鬱な表情になった。その様子により、雄高との再会が近いことを悟った皇子は、逆に、花開くように口元を綻ばせた。
今度こそ、耳環をくれてやれる。
今度こそ。
〝及ばずながら俺が、志貴の片腕になってやるよ〟
その声を思い出し、寝台の下に置いた物を想う。
腐臭を誤魔化す為に、随分と色々な香をきつく焚いて過ごしてきた。
(ああ。雄高。ずっとお前の片腕と共に在ったよ)
死肉すらも愛おしい。
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