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「……私に、食べられるため」
その言葉の後に、無限とも思える長い静寂が訪れた。進路相談で「さすらいのグルメを目指す」と、教師の前で宣言した時のように……。
「……そうか」
重い沈黙を破り、カエルはそう寂しげに呟くと、さめざめと涙を流した。そうしてその体はみるみるうちに溶けていき、緑色のスープに変貌していった。私はただ黙って、死にゆく者を看取るような、厳粛な眼差しでそれを見つめていた。
「さあ、冷めないうちに」
「……はい」
涙混じりのスープは、濃い塩の味がした。その哀しい味は、己の孤独な半生を想起させた。
幼少期に実の両親と生き分かれ、施設で育てられた私。施設でも、学校でも友人は出来ず、三食の食事だけを楽しみに生きてきた。実の両親の顔など、ましてや故郷の思い出など、憶えてはいない。憶えていたところで、孤独が癒されるわけでもない。
そのような回想に耽っていたためか、完食する頃には自然と落涙していた。
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