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「お待たせしました。デザートのプツィンでございます。主人には及びませんが、私の自慢の一品です」
プツィン。見た目も名前もプリンに酷似しているが、あまりにも青い。まるでこの世のありとあらゆる寒色を、この一皿に凝縮したかのように。
ゆっくりとスプーンで掬い、恐る恐る口に運ぶ。すると突然、全身が未曽有の多幸感に支配された。かつて味わい、記憶の彼方に忘却したような、懐かしい感覚だった。例えばそれは、胎児の安寧、家族に温かく迎えられた、誕生の瞬間。そして……。
「おふくろの味!!!」
そう叫んた私は、心の底から湧き上がる熱い衝動に突き動かされ、その身を包む全ての衣服を破り捨てた。それはつまり、全裸。その胸には、老コックと同じ「K」の紋章が浮かび上がっていた。
「あんた、まさか……」
厨房から出てきた老女と老コックが、驚愕と感嘆の表情で私を見つめる。老コックの口は小刻みに震え、その瞳からは、二筋の雫が流れ出す。
「我が息子、ルメルメ人(ひと)……」
「父さん、母さん……」
今、全てを思い出した。キョバムカとは惑星(ほし)の名前。そして自分は不慮の事故で、その惑星から地球に流れ着いたという事を。これまで味わってきたキョバムカ料理は、決して「新しい味」などではなかった。既知の、故郷の味だったのだ。自分は今、幼少期に生き別れた実の両親と、生まれたままの姿で相対していた。
「……久しぶり」
「こんなに、大きくなって……」
私と両親は静かに歩み寄り、十数年の空白を埋めるかのように抱擁を交わした。
先程のカエルは、私にこう問いかけていた。「自分は何故、ここにいるのか」と。私はこの二人がいたからこそ、今ここに立っていられるのだ……。
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