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「留守番はしょっちゅうだから大丈夫ってYさんも言ってたんだけどな。早く寝ろって言う母親もいないし冬休みだし、だらだらしててそのままこたつで寝ちゃったんだな。電気ストーブもこたつも付けっぱなしで。――それが原因で火事になってさ」
「もしかして息子さん……亡くなられたんですか?」
Nはこくりと頷いた。
「しっかりしてても小学生だ。火事に気が付いてパニックになったんだろうな。消防じゃなくて母親の携帯に助けを求めたんだよ。でもYさんはカバンに携帯を入れたままで息子の着信に気が付かなくて。――携帯に残ってたらしいよ」
何がですか、とSは首を傾げた。
「留守電。息子の声が何回も」
複合プリンタはまだ“おかあさん、おかあさん……”と呼び続けていた。だが、その声はもうほとんど聞き取れないほど小さく掠れていた。Sは複合プリンタをそっと撫でた。
「息子さん、今時分に亡くなったんですね」
不思議と怖いという感情はなかった。ただ少年と、後悔し苦しんでいるだろうYへの同情だけが浮かんだ。しかし――。
「いや」
Nはあっさりと首を横に振った。
「息子さんが亡くなったのは十二月二十六日。時間は二十二時ごろだ」
今日は十二月三十一日……いや、二十四時を過ぎているから一月一日だ。
「納品準備が終わってないからって通夜や葬儀の合間に出社して、作業が終わったのがこれくらいの時間。で、留守電に残ってた息子さんの声を聞きながら」
Nがすっと正面の窓を指さした。
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