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おかあさん
これはIT業界に勤めている友人から聞いた噂です。
***
小さなシステム開発会社に勤めるSは、今日も作業が終わらずに作業場である客先のビルに残っていた。百人以上のデスクが並ぶ広いフロアには、終電が終わっているにも関わらず仕事を続ける人の姿が点々とあった。ビルの空調は二十三時に停まっていた。残っていた暖房の熱も徐々に消えて、フロアはずいぶんと冷え込んできていた。
首から掛けている入館証の紐からみんな、Sと同じ子請け、孫請け会社の人間だと判断できた。本来ならフロアに一人くらいは正社員が残っていないといけないはずだが――。
苦笑いしてSは立ち上がった。複合プリンタから詳細設計書を出力するためだ。この時間になるとパソコン画面で文字を追うのがつらい。
複合プリンタの小さな画面を操作して、印刷開始ボタンを押した。複合プリンタは長い間、操作をしていなかったせいで節電モードになっていた。印刷が開始されるまでには少し時間が掛かるだろう。複合プリンタがか細い悲鳴のような動作音を立てて印刷準備を始めた。
――……あ……さん、お……あさん。
あくびをしながら待っていたSは複合プリンタを見下ろして目を丸くした。
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