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あわてる千里に、隼人は黄色いレジ袋を出してみせた。激安店のペンギンのキャラクターがついた袋だ。表面にうっすらと白く水滴がついている。
「大丈夫、これ順番に揚げてくれればいいからさ」
中身は業務用二キロ入りの冷凍コロッケとフライドポテトだった。男たちの手には、箱入りの缶ビールがあった。
「すみませーん。灰皿ないですか?」
勝手にこたつに入った男が、となりの部屋にきこえてしまいそうな大声で千里にたずねてきた。
リビングは完全に占領された。千里は、高校時代の思い出話でもりあがる騒がしい声をききながら、ひとりキッチンでコロッケを揚げ続けた。若い男たちは、まるでスナック菓子のようにそれをつまんだ。
皿を取り替えるときに、ちらりと見た隼人の顔は嬉しそうな幼い笑顔だった。学生時代の友人にかこまれて、すっかり高校生にもどってしまったみたいだ。実家で過ごしているような気分なのだろう。
途中、ひとりが酒を買い足すといって部屋を出ていった。
戻ってきた彼は、相変わらず油まみれになってキッチンの前に立っている千里に、そっとハーゲンダッツのカップをさしだした。
「ずっと揚げものしてて暑いですよね。すみません。彼女さんも食べてください」
にっこりと笑う。
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