可愛い彼女、みつけてね

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 隼人は三年前に千里の会社に入社してきた。千里は開発部門の資料管理の担当だった。隼人の所属は営業二課だったが、新人研修の一環としてしばらく千里の下でファイリングを教わった。  体育会系で上役を立てるのが上手だった。髪は短く清潔感があり、日に焼けた顔で人なつこく笑った。自分の失敗をネタにできるユーモアとメンタルの強さが、千里にはまぶしく思えた。  やがて、ふたりで夕食を食べに行き、お酒を飲みに行った。月に一回ほどが二回になり、三回になった。  これはもはやつきあっているといっていいのだろうか、と千里が考えはじめた頃にちょうど告白された。最初からシナリオが用意されていたような完璧なタイミングだった。既成事実をみとめるようなかたちで、千里は隼人との関係を受け入れた。  冷えたビールを喉に通して、千里は、はあっと息をついた。隼人にとって自分なんて、攻略しやすいチョロイ女だっただろうな、と苦く考えた。だから、手に入れたありがたみもすぐに薄れてしまう。  もっとかけひきをするべきだったのだろうか。「私なんてオバサンだから……」と身を引いてみせてから、「さびしい」なんて思わせぶりなメールをしたりして。  一瞬考え、すぐに打ち消した。そんなのが通用するのは一昔まえのテレビドラマの中だけだ。世間の男がもっと恒常的に求めているものは、「可愛らしさ」。頼ったり、泣いたり、甘えたりするわかりやすい可愛らしさだ。
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