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「せっかく、ご飯つくって待ってるのにー! 早く隼人が来てくれないと、さびしくて泣いちゃうよ!」
(こんな感じか?)
例文を考え、気持ちの悪さに千里はあわてて頭の中で打ち消した。こんなの自分のキャラじゃない。だいたい年上の女が送って許されるような文章じゃない。
子供のような駄々はこねない。重い束縛なんてしない。余裕があって、ものわかりのいい大人の彼女でいること。それが隼人の前で千里が一生懸命つくってきた自分の姿だ。
千里はビールの缶を炬燵に置いて座った。テレビをつけ、スプーンを手にすると、コテージパイのチーズをすくった。レシピどおり丁寧につくったパイは、ひとりで食べてもおいしかった。
明くる日、隼人は昼休みにわざわざ千里のいる資料課のフロアを訪ねてきた。
千里の同期はもうほとんど結婚と出産で会社を辞めていた。いるのは後輩ばかりだ。彼女たちの視線を背中にあびながら、千里は隼人と連れだって廊下を歩き、休憩用のスペースまできた。
大きな窓からやわらかな冬の陽が差していた。壁際に自動販売機がならび、長いソファの横には少し成長しすぎたゴムの木が置いてあった。
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