可愛い彼女、みつけてね

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「でもさー、千里はやっぱりママの子だから、そんなの恥ずかしくってできなかったんだよね」  母親の声に千里を責める響きはまったくなかった。そのことがかえって千里はつらかった。  ママ、ごめんね。千里は心の中でつぶやいた。パパをひきとめられるような、愛くるしい娘じゃなくてごめんね。そのかわり私はママの娘らしく、誰にも甘えずに自立した女性になるよ。あなたの人生をちゃんと肯定してみせるよ。  国立大学の栄養学部を卒業して、食品会社の開発部に就職した。母と暮らした家から独立して五年になる。それでも千里は、あの日の幼い虚勢を今も張り続けている。  隼人の高校は週末、都の代表を決める決勝戦を迎えた。もはや当然のように、先週と同じ友人たちと連れだって観戦にでかけていった。 「夜には部屋に行くから待ってて、千里さん」  二度目のその言葉を真に受けてもいいのかどうか、千里は迷ったが、それでも部屋の掃除をして待っていた。  隼人がやってきたのは八時過ぎ。乗ってきたタクシーからは、三人の男が一緒に降りてきた。 「四人も来るなんてきいてないから」  冷蔵庫に入っている食材はふたり分しかない。牡蠣も野菜もふたり分。ふたり分の土手鍋の材料だった。
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