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「タエさん、もうすぐ旅立ちですよ」
「ああ、わかっておる。その前にみんなの顔を見ておきたくてねぇ」
私は、現世で亡くなった人を、天界にお送りする『お迎えさん』です。先輩とコンビを組んで、御霊が無事に成仏するためのお手伝いをしています。
今日お迎えするのは、100歳のおばあちゃん。25年前に夫である正一さんに先立たれたあとも、お元気で過ごされていたのですが、老衰でお亡くなりになられたそうです。
私は新米なので、まだ複雑な案件は回ってきません。上司で神様の蓮さんが私たちに、
――習うより慣れてもらわないとな。まずは天界にお連れすることを覚えてくれ。
と、いわれたので、今は穏やかに亡くなられた方をお迎えしています。
蓮さんはイケメンで20歳ぐらいの外見をしています。
とても自由に生活していて、神様同士の会合を途中で抜けて帰って来たりと、困ったところもありますが、私たちが困った時は、現世まで降りて助けに来て、時には生きている人間の前に姿を見せて諭したり、なんてこともしてくれます。
そういうこをしなければならないので、姿は現世にいた時と異なっているそうです。彼は生きていた時もカッコ良かったと言っているのですが、どうだか……。
失礼、話がそれました。私とタエさんは葬儀会場にいて、2人で静かにその様子を見つめています。150人ぐらいはお別れに来ていたでしょうか。僧侶の心がこもった読経がせせらぎのように流れる中、涙を流す人もいました。
「うれしいねえ、みんな来てくれて……」
「はい。良かったですね……」
読経も終わりに近づいた頃、
『願わくば、俗名東尾正一との再会を願うものなり』
そう唱えた時、タエさんは少し涙目になりました。
「ありがたいねえ。あの人に会いたいねえ……」
「会えますよ。必ず」
私はスマホを取り出して天界の先輩に連絡を入れました。亡くなった人と親しかった人が天界で会えるのは、事前に私たちが手配しているからなのです。
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