密室

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まさかこんなことになるなんて。 誰しもが、自分の人生は平凡で、時々すったもんだあるにせよ、大抵の事は乗り越えていけると、そう思っているに違いない。 私はどちらかと言えばかなりマイナス思考だし、心配症だけど、対応力もあるし、臨機応変さには自信があった。しかし、ここで起きたのは、まさかの地震だった。 ドアの外で、カタンっと小さな音がした。 地震は体感的に震度2か3程度。 そんなに恐怖を感じることもなく「ああ、地震だ…」と思っただけだった。 しかし、いざドアを開けようとしたその時に、ある異変に気が付いた。 何かが、ドアの前にうまい具合に倒れている。 押して開けなければいけないのに、ビクともしない。 でも、倒れた物の見当は、簡単についた。 それは先日、頭上に、新しい突っ張りタイプの棚をつけるべく、壁から壁の幅を測ろうとした時の、1mの竹定規だ。 実際は測り難くて全く役に立たなくて、メジャーを買いに走ったのだけれど。 その時に、立て掛けたままにしてあった。 なるほど…あれか。 ドアの外、すぐ右手にある棚と壁に挟まってた定規が倒れて、ドアの前に斜めがけって感じ…? 強く押せば折れて開くかも? 力いっぱいドアを押してみた。 しかし、ドアはびくともしない。 ほんの少しだけ、焦りだす。 いや、なにか方法はあるはず。 でも、あいにくカバンは車の中…助けも呼べない。 手元にあるのは小さなドライバーと、新しいカメラと、ガムテープと…ん? そうだ!ドライバー! これで、ドアノブを外せばその穴から、斜めがけの定規をどかせるかも知れない! そう思った私は、ドアノブに手を伸ばした。 よし、よしよし!外れそう! ゴトン…と言う音と共に、ドアノブが外れた。 指4本をなんとかつっこみ、定規を探す。 指先に軽く触れたが、動かすにはまだ遠い。 あと少し…あと少し…と力を込めて手を突っ込んだ。 そして、後悔した。 あまりにも必死に突っ込みすぎて、激痛が走った。 そのまま、押すことも引くことも出来なくなってしまった。 その時、ガチャガチャ!と、キッチンの先にある玄関の鍵を、回す音がした。 「あれ?」 こんなに早く帰ってくるなんて。 かつて大好きだった彼の声に、背筋が凍る。 私を見つけ、また怒り狂うに決まってる。 もう、あんな想いは、したくない。 私は覚悟を決め、二度と傷つかなくて済むように、自分の喉元に、ドライバーの先を押し当てた。
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