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平井はモシュランガイドブックを閉じると筒状にギュッと丸め、悔しさを露わにした。 『開店から経った2年で星2つやて?あの恩知らずめ、あれは精進して料理の腕を上げたと言う因りも、もしかすると割烹平井では本気のレシピを考案していなかったんとちゃうか?そう己の店でモシュランの星を取る為にきっと秘蔵のレシピを考案しとったんや。畜生、舐めた真似しよってからに!』 平井はモシュランガイドブックをゴミ箱に投げ込むと、怒りの余りシンクをドシンと思いっ切り蹴っ飛ばしたのであった。 それから割烹平井は不運が祟り、お店の料理で食中毒を出し、客足も遠退き、そのストレスの為、平井は弟子の1人をパワハラで殴ってしまい、弟子が店を辞め、警察には被害届を出さなかったものの、SNSでその情報をばら撒かれ、店の品位を著しく汚してしまったのであった。 それでも店は潰れるまでは追い込まれず、一等地の賃料は苦しかったものの、それでも細々と黒字経営を続けていた、割烹澤本が星2つを取ってから翌年の事であった。 遂に割烹澤本がモシュランガイドブックで3つ星を獲得したのであった。 その情報を副料理長から差し出されたガイドブックで知った時、図らずもポトリと平井は涙を零してしまった。 自分では絶対に手の届かない高みにまで澤本紘一と言う男は易々と開店3年目で達してしまった。 それに比べ今はまだ黒字とは言え、かつての精彩を欠き割烹平井は衰退の道を辿っているとしか思えなかった。 平井は澤本紘一と言う天才料理人を手放してしまった事を今更ながら深く後悔したと同時に沸々と怒りが込み上げて来たのであった。 『澤本め、絶対に許さんぞ。今に見ておれ、目に物見せてやるわい・・・』 とは思ったものの、具体的に恨みを晴らす方法など思い付く事なく、その一方的な怨望(えんぼう)を胸の奥深くに仕舞わざるを得ない平井であった。
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