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「幾ら金の為とは言え、世の中、ここまでする商売人はそうはおらへんで。正直、恐れいったわ。えぇ、よろしい、1kg 200万円で購入させて貰いまっ!そやけど、効果は間違いないんやろうなぁ?」
すると男はヒクヒクと不気味な笑い声を漏らすと答えた。
「えぇ、効果は間違い御座いません。もうそれは、絶大ですわ!」
そして2人して顔を見合わせ、キヒヒヒヒと内から湧き出す邪悪を漏らす様な笑みを交わすのであった。
◆
翌日、平井は職場に向かう前にまず百貨店で高級な見目艶やかな重箱を購入し、それを一旦家に持ち帰り職場に向かった。
そして、仕事が終わり自宅に着くと重箱に件の塩を入れて平らに均すと蓋を締め風呂敷でそれを包んだ。
そして次の日、平井は職場に向かう前に重箱を手に割烹澤本へと足を運んだ。
まだ早朝でこの時間はまだ準備中だろうと睨んで足を運んだ、そう、モシュラン3つ星を贈られ輝かしい活躍をする澤本の姿を目にするのが苦痛だった為である。
平井は割烹澤本の看板に妬みの眼差しを投げ掛け、入り口に盛り塩が盛られていないのに気付きニヤリと笑みを漏らすと、次の瞬間には表情を殊勝に引き締め、ガラガラと引き戸を開けた。
出入りの業者がやって来たと勘違いしたのだろう、板場でまな板の食材と向かい合って居た澤本が「おはようさん」と声を掛け顔を何気に上げると、平井が入って来たので慌てて調理の手を止め、板場から出て来て頭を深々と下げて挨拶をした。
「これは、平井料理長、ご無沙汰しております」
平井は澤本の弟子達に面目が立ったと、一瞬だけ良い気になったが、それでも今日の訪問目的を取り止める訳には行かなかった。
そう、それだけ澤本への妬み恨みの思いが根強く平井の胸中に巣食っていたのである。
澤本は顔を上げて笑顔でかつての師匠に向き合った。
「料理長、訪問して頂くのでしたら、営業中に来て頂き是非、料理の方も召し上がって頂けたらと・・・」
平井はやんわりとそれをいなした。
「ホンマはそうしたかったんやけど、ウチの店も忙しゅうてな、おかげさんで、そう今日は大分遅うなってもうたけど、開店祝いや、ほれ」
澤本に重箱を差し出す平井。
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