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                   ◆ 噂話は以下の様なものであった。 『盛り塩で使用する塩を専門に扱う業者があるらしい。どうもその塩、値段は相当張るが普通の塩では無いらしく、怨みに思う相手がいる人間などには、お誂え向きの塩らしい。そしてその盛り塩で使う塩の製造方法は・・・』 そう噂話の続き、そこにはこう記されていた。 『人間の遺体を塩漬けにして、どうも作製しているらしい』と・・・。 そう、あの日、男に連れられビルの地下で平井が見た光景、それは、地下室に10つの大甕(おおがめ)が置かれており、その大甕のどれにも人間の遺体が塩漬けにされていたのである。 男は(つまび)らかには語らなかったが、何らかの手段で訳アリの人間を手に入れ、この様に塩漬けを作っている模様であった。 訳アリの理由を男は語らなかったが、物言わぬ遺体が雄弁に物語っていた。 そう塩漬けにされたどの遺体の表情も苦悶に歪み、ある遺体は苦痛の末の断末魔を叫んだ瞬間をそのまま名残として表情に刻印していたし、別の遺体は、顎が外れそうなぐらいに大口を開けて亡くなっており、その口に詰め込まれた塩が死んだ後もその苦しみを増大させている様に思え平井はいつまでも見ている事が出来ず目を背けた。 そうどの遺体の顔にも刻印されていたその苦悶が自ずと語っている様に、恐らく、生前の苦しみ、呪詛それらが複合的に塩詰めにされた塩へと乗り移り、呪いの塩とも言うべき盛り塩専門の塩へと生まれ変わった様であった。
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