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安堵感と優越感に舞い上がる春一に、
「だから、春さん。ついて来てくれませんか?」
鈴音はポンと言う。
「ホントはひとりで病院に行くつもりだったんですけど、ちょっと怖くなってきちゃって。でもこっちには親しい友だちもいないし、透子は北海道だし……」
「え?」
降ってわいた話に、固まってしまう春一。
『ついていく? 俺が婦人科に?』
しかし不安げに揺れる鈴音の瞳を見つけて、
「わかった行くよ。俺は鈴音の婚約者なんだし」
すぐに決断した。
鈴音に不安な顔をさせるわけにいかない。
それに、今のうちに慣れておくに越したことはない。
婦人科にはいずれ、何度も通うことになるはずだ。
そういう幸せな未来を想像して、つい頬を緩ませる春一だったが、鈴音に言わなくてはならなかったことを思い出して、慌てて言った。
「あっ鈴音、本当に俺と結婚してくれるのか?」
「え?」
「くれるんだよな?」
すごくマヌケなプロポーズである。
結婚の申し込みというより確認。
ムードもクソもない。
でも確かに、はっきりと言葉にして鈴音に問うのは、これが初めてかもしれない。
婚約者だとか何だとかは散々言ってきたけれど、俺と結婚してくれとは言っていなかった。
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