1 プロポーズ

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その婦人科へ行く日が今日であった。 鈴音がひとりで行くつもりで、予約を入れたのが今日の午前。 そんなこんなで、鈴音の実家へいく話は後回しだ。 飛行機の予約も取れなかったし、年も明けたし、今さら慌てても仕方がないと、妙に腹もすわってしまった。 年少組のふたりがダッシュで登校していくのを見送ってから、 「春さんのお仕事まで休ませてすみません。でも忙しいなら、やっぱり私ひとりで――」 言いかける鈴音に、 「いいんだ。有給休暇はたくさん残ってるし、それに他の用事もあるし」 言いかけた春一ははっと思い直して、 「違う違う。鈴音が頼ってくれたのが本当に嬉しいんだよ俺は」 慌てて言い直す。 「鈴音の助けになれて、本当に嬉しいんだ」 はぐらかされたと感じたのか、首を傾げる鈴音に、春一は観念したように白状した。 「実は今日の午後、この家に伯母が訪ねてくる」 「伯母さん?」 「うん、父親の姉なんだけどね」 両親と離れて暮らしているせいか、春一が親戚のことを口にすることは、あまりない。 伯母の存在を聞くのはこれが初めてだ。 春一は、 「実はまだ、伯母には、鈴音のことを話していないんだよ」 苦虫を噛みつぶしたような顔になる春一に、鈴音は、 「あの、じゃあ、私は家にいない方がいいですか?」 「違う違う! 鈴音を追い出すつもりはないよ」 春一は慌てた調子で首を振る。 「親にも会わせてないのに、いきなり伯母に会ってくれなんて、鈴音こそイヤじゃないか?」 「イヤだなんて、そんなことはないです。確かに緊張はしますけど」 春一たちの両親は海外だから、伯母さんとなれば、春一たちの一番近くにいる身内になる。 いずれは挨拶しなければいけない相手だ。
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