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すると、
「そんな簡単な相手じゃねーぞ」
リビングから夏樹が出てきた。
「いつまでも戻ってこねーから、いちゃこいてんのかと思ったら、伯母さんの話かよ」
「いちゃこいてるって、お前な……」
春一は咎める口調で言うが、夏樹は鈴音に向かってニヤリと意味深な笑みを向けてくる。
「会うなら腹すえとけよ。イヤーなやつだぜ」
「夏樹、言葉がすぎるぞ」
春一は叱るが、夏樹がここまであからさまに言うのなら、相当な人物かもしれない。
「夏樹は伯母さんとあんまり仲が良くないの?」
聞くと、
「気にくわねーことしてくんのは、あっちなんだよ」
「夏樹!」
春一が声を荒げて夏樹を止める。
「お前は赤ん坊だったから、伯母さんのことなんかあまり知らないじゃないか」
聞けば、来生家の実家は福井県の田舎にあり、春一が4歳、夏樹が2歳の頃に父親の両親、つまり春一たちの祖父母がそろって他界するまで、伯母夫婦も一緒に暮らしていたそうだ。
祖父母と、春一たち親子と伯母夫婦とその娘たちが同居。
どれだけ大きな家だったのだろう。
「田舎だからな。部屋だけは山ほどあったんだ。でも俺は正直、あの古い家がイヤでイヤでたまらなかった」
ブルッと大げさに震えてみせる夏樹が、鈴音は少しおかしくなる。
大胆不敵で怖いものなしの夏樹が、古くて大きな家に怯えるなんて、当時2歳だったとはいえ、かわいらしいところがある。
ところが夏樹は、
「笑うなよ鈴音。俺は別に幽霊が出るって言ってんじゃねぇ。田舎の古くさいしきたりだとか慣習が大嫌いで、寒気がするって言ってんだよ」
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