1 プロポーズ

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すると、 「そんな簡単な相手じゃねーぞ」 リビングから夏樹が出てきた。 「いつまでも戻ってこねーから、いちゃこいてんのかと思ったら、伯母さんの話かよ」 「いちゃこいてるって、お前な……」 春一は咎める口調で言うが、夏樹は鈴音に向かってニヤリと意味深な笑みを向けてくる。 「会うなら腹すえとけよ。イヤーなやつだぜ」 「夏樹、言葉がすぎるぞ」 春一は叱るが、夏樹がここまであからさまに言うのなら、相当な人物かもしれない。 「夏樹は伯母さんとあんまり仲が良くないの?」 聞くと、 「気にくわねーことしてくんのは、あっちなんだよ」 「夏樹!」 春一が声を荒げて夏樹を止める。 「お前は赤ん坊だったから、伯母さんのことなんかあまり知らないじゃないか」 聞けば、来生家の実家は福井県の田舎にあり、春一が4歳、夏樹が2歳の頃に父親の両親、つまり春一たちの祖父母がそろって他界するまで、伯母夫婦も一緒に暮らしていたそうだ。 祖父母と、春一たち親子と伯母夫婦とその娘たちが同居。 どれだけ大きな家だったのだろう。 「田舎だからな。部屋だけは山ほどあったんだ。でも俺は正直、あの古い家がイヤでイヤでたまらなかった」 ブルッと大げさに震えてみせる夏樹が、鈴音は少しおかしくなる。 大胆不敵で怖いものなしの夏樹が、古くて大きな家に怯えるなんて、当時2歳だったとはいえ、かわいらしいところがある。 ところが夏樹は、 「笑うなよ鈴音。俺は別に幽霊が出るって言ってんじゃねぇ。田舎の古くさいしきたりだとか慣習が大嫌いで、寒気がするって言ってんだよ」
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