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夏樹はそんな春一に、
「俺だってそういう時はだなー、髪を黒に染め直したりするんだよ。それぐらいの良識は持ち合わせてる」
「はぁ? 髪を染めることが別に良識じゃないだろう」
どうやら春一は、本気でそう思っているようだ。
「夏樹は夏樹じゃないか。鈴音の両親にウソをついてどうすんだよ」
春一はとても不器用だと思う。
こういう不器用さで、どれだけの損をしてきたことだろう。
夏樹はすぐ下の弟だから、誰よりも春一の不器用さを見て来た。
でも、そんな兄だからこそ、夏樹は、
「春、やっぱりきちんと鈴音にプロポーズしろよ」
春一の鼻先に指を突きつけて言ってやる。
「誰に聞かれても、鈴音が喜んで答えられるような、そんな完璧なプロポーズをするんだ」
春一は困り果てた顔をして、
「……急にそんなこと言われてもな」
だけど夏樹の言うのも正論だと、
「まあ、頑張って考えてみるよ」
素直にうなずく。
これまで、夏樹は春一のためにならないことを言ったことはない。
そんな春一に満足気な笑みを浮かべ、夏樹は、
「知らないうちに鈴音が心変わりしてるってこともあり得るしな。まあ、あっちに行ってフラれたら、さすがにみっともねーぜ春」
えらく不吉な言葉を吐いた。
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