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遠くにありて思うもの
トントン、ギュイーン。トントン、ギュイーン、ギュイーン。
「うるさいなぁ」
絶え間ない機械音に思わず洋一がこぼすと、妻の佐代子が苦笑いする。
「もう少しの辛抱ですよ。ほら、外側の幕も外れたし、あとは内装だけじゃないですか」
「こう朝から晩までトンカンやられたら、こっちの頭がおかしくなっちまう」
「向こうだってお仕事なんですから」
しかしなぁ、と言いながらタバコの箱に手を伸ばした。
「あら」
すかさず佐代子の声が飛ぶ。
「我が家は禁煙になったはずですよ」
「……一本だけだ」
「だめです」
ふぅ、とため息を吐いて、洋一は立ち上がった。
「出掛ける」
「あら、私もお昼からフラワーアレンジメントの教室があるから出掛けますけど、お昼ご飯どうします? 何か簡単に作っておきます?」
「いや、外で食べるからいいよ」
「そうですか」
席を立ち、水音をさせ始めた佐代子の背中を見つめながら、洋一はまた一つため息を吐いた。
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