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1. ハヤブサ
さっきから数種類の音が、繰り返し入れ替わり、頭の中で聞こえている。
速く冷たい風が、耳元の空気を切り裂く音。
同じその風にのって聞こえる、波が岸壁にあたって砕ける時の音。
風に強い草たちが、海風に揺れて擦れる、不規則な調べ。
自分のトレッキングシューズが、ざっざっと、足もとの砂敷きの細道を、踏みしめていく音。
そして――遥か上の空から降りてくる、甲高いキィという猛禽の鳴き声。
「ずいぶんと高い所を、飛んでいるなぁ」
その独り言を、歩き続けて荒くなった息とともに、吐き出した。
オレンジ色のキャップをかぶる女性は、ひときわ大きな息継ぎをして、その場で足を止めた。
ずしりと重く食い込んでいた、バックパックのショルダーストラップを、肩からそっとずらす。筋肉が紐の形に痺れていて、その部分の感覚が極端に鈍かった。
彼女は背負っていた荷物をいったん地面に下ろし、痛む腰に手を添えた。ぐっと背筋を反らすと、自然と顔が空の方を向いた。
キャップの下で、球になっていたいくつもの汗が、振動でくっつき、筋となって額から流れ落ちてきた。その汗の量が、重い荷物を何キロも歩いて運んできた、証拠でもあった。
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