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通常の仲間よりも小さく、体の線は細かった(羽ばたきが弱かったので、仲間には「虫の羽音」と馬鹿にされた)。かといって「鋭敏な判断力」とか「類まれなる知覚」なんて能力は持っていない。
そもそも猛禽としての獰猛さが足りないと、兄たちが嘆いていたのを聞いたのは、一度や二度ではなかった。
あえて自分を示せと言われて、思いつくものは何だろう。好奇心ぐらいだ。それがハヤブサにとって何の役に立つものか、自分にはわからなかった。
自分たちユキハヤブサが、成長になって生きていく上で、重要な節目があった。
それが巣立ちの試練だった。
一般に飛ぶ鳥にとって、巣立ちは危ない瞬間といえる。それは弱者でも王者でも、避けられない種類の危険だ。
ただ仮に失敗したとしても、下に地面があり草が生えていれば、命は奪われず、再度挑戦の機会が与えられる可能性もある。
しかし我が一族にとって、この旅立ちの行為に2度目はありえなかった。
理由の説明をするのに、言葉は不要だ。「台座」に立って眼下を見て、感じるといい。その尖った岩だらけの地を。荒れ狂う波の勢いを。
失敗は避けようのない死だった。
自分たち雛鳥が大人になるためには、この究極の状況から生を勝ち取らねばならない。
そして高いハードルから来る恐怖のせいなのか、この苦難を乗り越える雛鳥が、ほとんどいなかった。
我々一族の大人の数が、極端に少ない理由が、ここにあった。
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