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どうして自分たちは、あんな所から飛ばなければならないのだろうか。
雛鳥たちは当然、この不条理な儀式を疑問に思っていた。
身近にいて自分を育ててくれる父も母は、台座から飛び立ち、生き残った者たちだ。
だから理由を問いかけてみた事がある。けれど大人たちは決して口を開かず、わけは教えてもらえなかった。
そんなとき成鳥たちは必ず、赤いくまどり模様の中心で光る黒い目に、何とも言えない感情を浮かべて、われわれ雛鳥を見返すのだった。
天候もよく、海からの風も安定している。そんな日を「絶好の巣立ち日和」とでも呼ぶのか。
とにかく兄が台座に立った日の朝の空気は、そんな印象だった。
儀式に参加する許可は、父と母から与えられる決まりだった。
母はすでに岸壁の巣穴の先端に、単独で止まっていた。やがて、天空から舞い降りてきた父が、狙い違わず滑り降りてきて、母の横にピタリと止まった。
父と母はコロロと喉を鳴らし合った。そのあと、お互いキィと一声ずつ鳴いて、兄の方を鋭く見た。
それが合図だった。
兄に迷いはなかった。
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