2. 台座

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遠目で、兄の口が開いたり閉じたりしている様子が見て取れた。老鳥と何か会話をしているのかもしれない。その証拠に軽く会釈する場面も見られた。 その合間に、横にいる姉の様子を見た。彼女も非常に真剣な顔で、台座を見つめていた。兄が飛び立てば、次に挑戦するのは彼女なのだ。そこに映る兄の姿に自分を重ねて見るのは、当然の事と言えた。 突然、眼の前で姉の表情が曇った。冷静な姉にしてはとても珍しく、瞳に疑いと困惑が浮かんでいた。 あわてて注意を台座に戻した。 兄は変わらず同じ場所に立っていた。特にさきほどと変わった様子はない。 そう考えたのも束の間、異変はすでに起こっていた。 兄の黒い真珠のような瞳から、すっと光が失われていった。彼の目は何も反射しない黒い塊となっていた。最初に肩が小さく震えだした。その震えは翼の先から腹の毛、爪の先まで、虫が這うように全身に伝わっていった。 いきなりその震えがピタリと止まった。すると兄のあんなに力強かった体が、ぐらりと傾いた。倒れるかと思ったが、ギリギリで左脚で突っ張り、何とかこらえた。 「兄さん?」 今まで黙っていた姉が、問うように口を開いた。彼女すら見たことのない兄の様子が、そうさせたのだ。     
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