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「どんなに古い言葉が語ろうが、しなびた老鳥が口を挟もうが、そこから飛んでしまえば終わり。その者が勝者なのだ! これは私の巣立ち――誰にも邪魔をさせるものか!」
姉は唾を吐き、最後にこう告げた。
「弱き弟よ、ならばその安全な場所で震えながら、私の儀式を見ているがいい。せめて――出来るものなら――何か異常を感じた時には、大声を出して私に呼びかけろ。貴様も高き空を舞う一族のはしくれだ。それぐらい可能だろう」
言い捨てると、彼女は翼を翻し、巣の奥へと歩き去った。自分には姉の白い背を見ても、言葉のかけようがなかった。そして振り向いた時にそこにいた両親も、黙って去りゆく娘を見つめていた。
次の日も来てしまった。
朝焼けが終わり、もう海からだいぶ離れた太陽が、岸壁を白く照らしていた。風も少なく天候はとても恵まれていた。
両親の始まりの鳴き声を耳にした姉が、無言で前を通り過ぎていく。ちらりと目の端で自分を見たように思えた。そうだったとしても、それは一瞬だった。
姉は兄が登った崖に足をかけた。彼女の方が少しだけ体重が軽いせいか、身のこなしは滑らかで、無駄がない。岩から岩へ次々とジャンプし、あっという間に目的の台座まで登り着いた。
自分が巣穴から頭を出すと、すでに台座の上で、周囲の様子を確認している姉の顔が見えた。例の老鳥はまだ来ていないのだろう。
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