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少しの時間も無駄にしたくないのか、用心深く息を吸い込んだり、鉤爪で足元の岩の硬さを確認するなど、姉は準備に余念がなかった。
バサッと、今度は誰にでも聞こえる音と共に、天空から老ハヤブサが姿を表した。彼はゆったりと回転しながら滑り降りてきた。兄の前にあらわれた時と同じ、岩から突き出た枝に止まった。
見つめ合う2羽。激しく何重にも鳴り響く波音のせいで、彼らの会話は相変わらずよく聞こえない。
何か確認の言葉を投げられたのだろう。姉は口を閉じたまま、静かにうなずいた。
ここまでは何も変わらない。儀式の進行は兄の時と同じだった。
けれどその場にいる姉は、兄よりもさらに落ち着いているように見えた。
「今度こそ、旨く飛べるかも知れない」
だんだんと、そう思えてきた。ここで仲間の1羽が飛び立てば、悪い流れが断ち切られ、自分にも生のチャンスが舞い降りる可能性もある。
不安な気持ちが払拭されて安堵に変わる、そのほんの1秒手前だった。
「ピィーーーーーーー!!」
あらゆる周囲の音をつんざいて、悲鳴が聞こえた。巣の両親や自分はもとより、周囲で暮らしている同朋や、獲物の海鳥でさえも、その異様な音が聞こえたと思う。
悲鳴の主は、自分の姉だった。
できればその姿を見たくなかった。けれど見えてしまった。
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