1. ハヤブサ

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彼女はスポーツタオルで汗を拭き取った。サイドポケットに入れていた水筒を取り、水分を補給した。曲げた膝に手を突き、下を向いて、復活の為の呼吸を何度か繰り返した。 県道脇の駐車場から海を目指して、もうだいぶ歩いていた。けれど、どこまで進んだのか、わからなくなっていた。似たような景色が続くので、距離感が麻痺しているせいだ。 彼女は周囲を眺めて、自分がいる場所をあらためて復習した。 ここは県内の最も東で、太洋を望む海岸の続く地域。厳しい自然が作り出す切り立った崖が、ギザギザの海岸線を作り、どこまでも続いている。 鳥になって、上空からこの地を眺めてみよう。地図上の、海と陸地の分け目に線を引き、その上に掌をペタンと置いてみる。そうすると、この地と同じ形を立体的に再現できる。 突き出た指に例えられる部分は、長年の波の侵食を耐えて残った、堅固な岩で出来た地層にあたる。指と指の間は荒波が寄せる海だ。この指型の岩が残っているおかげで、人は県道の走る指の根元の部分から、岩の背の部分を通って崖の先端まで、歩いて移動することができるのだった。 ただしここを通る道に、ろくな舗装はされておらず、ひとり分の道幅しかない。飾り程度に、鉄の棒が均等に地面に打ち込まれ、細いロープで結ばれているけれど、それだけでは崖下に転落する事故を防ぐのは容易ではなかった。     
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