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気の毒なぐらい、兄とそっくりな怯え方。彼より落ち着いていただけに、その後の狼狽する様子がいたたまれない。
彼女もまた、何かを見て、我々にはわからない恐怖の影に怯え始めていた。
この儀式の間で始めて、父と母が顔を見合わせ首を振った。
「そんな…」
まだそれは終わっていない。なのに諦めの仕草を見せる父と母に、思わず声が漏れた。
姉が再び、金切り声を上げた。今度は苦しみを訴える叫びだった。
そうすれば痛みから逃れられるかのように、姉はしきりに上下に頭を振り、顔をかきむしった。
それでも、彼女は耐えていた。何とか目を見開いて意識を保つ。ただそれだけに精一杯で、体が左右に揺らいでいた。
このままでは兄と同じ命運をたどってしまう。
そんな時、自分はすっかり忘れていた事を思い出した。
もうすでに遅いかも知れない。けれど、すがる思いで精一杯息を吸い込み、思いっきり大声で鳴き叫んだ。
奇跡的に、自分の声が岩棚にいる姉に、届いたようだった。
姉の激しい動作がピタリと止まった。激痛に耐えるため、強く押し付けていた鉤爪が顔面に食い込み、額が赤い血に濡れていた。
荒い息であえいだ後、彼女は弟の声に応えて、こちらを振り向いた。
いままで側面からしか見えなかった姉の顔を、あらためて正面から見ることができた。
その異様さに驚愕した。
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