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左側の眼球が真っ赤だった。そして目をぐるりと一周、取り囲むように血が吹き出ていた。
「ぐぐぐ…」
目元からゴボゴボと血が溢れ、赤い涙の筋が頬を伝って伸びていった。その血化粧は、大人たちだけに付いている、くまどり模様を思い起こさせた。
血まみれの眼が眼窩の中で、ぐるりと半回転した。言葉にならない原始のうなり声をあげる姉に、もはや意識があるのかすら、わからない。
苦しみに暴れる姉の動きがだんだんと鈍くなっていた。それだけ体力を消耗している証拠だった。
大地をつかんでいた片方の膝ががくりと折れた。バランスの崩れた体が、吹き下ろす風の圧力に耐えられなくなっている。
この台座は、実は海に向かって少し傾斜していた。まもなく訪れるであろう死が、姉の体へ手を伸ばし、崖のある方へと引きずっていくようだった。
どうしようもない。
悲しみとかそんな感情はない。ただもう一度、自分は無意識に姉を呼んでいた。
一瞬だけ、ずり落ちる姉の瞳がうっすらと正気の光を帯びた。そして姉の口が言葉を形作った。音にならずとも、その意味が理解できた。
「あなたには無理…逃げなさい…」
そして、彼女は落ちていった。
途中、尖った岩に姉の頭が当たり、血しぶきがとんだ。その勢いで体が縦に回転し、力の失われた羽がばっと開いた。
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