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強い風が吹くたび、手を振るように枝が大げさに揺れていた。これはこれで、目立つんじゃないのか? 女性は素直に思った。
テントの海に面した側の布地には、何個かの丸い穴が開けられていた。そこから鳥類観察用の単眼望遠鏡の先端や、カメラに取り付けられた黒い望遠レンズの筒が、ニョキっと伸びている。
この自然の中に置かれた個室には、すでに先客がいるのだ。その証拠に、テントの入り口に男性サイズのトレッキングシューズが置いてある。またテントの中から、ゾゾッ、ゾゾッっと、不規則に音が響いていた。
彼女はテントの入り口に手をかけ、ジッパーを開いた。
「おう、もふろうはん」
テントの中であぐらをかいていた男性が振り向き、もごもごと口を動かした。むわっと漂ってきた匂いは、できあがったカップラーメンのそれだった。
「また食べてるんですか…」
入り口から顔を出した女性は、諦めの混じった声で指摘した。
「まは、ふはつめだよ」
反論したつもりだろうが、言葉になっていない。
「はいはい」
そう、慣れた口調で切り返す。女性の言った「また」は、カップ麺の塩分量への指摘ではなく、種類の事だったのだが、相手が気づいた様子はなかった。
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