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こんな無頓着な人の職が教授で、名の知れた鳥類学者だなんて、まったく信じられなかった。
彼女は引きずるようにして、重い荷物をテントの中に引っ張り込んだ。
荷物の口を縛る二重の紐を緩めて、食料の入った大きなビニール袋を外に出す。
「それで、巣立ちの兆候はどうなんですか?」
「…メシメシ…あった、スニッカーズ! 孤独なせいか、寒いせいか。体が甘いモノを求めて仕方ない」
「もう、黒木教授! 質問に答えてくださいよ!」
「ああ、ごめん、平子くん。私が注意散漫なのも、君が苛つくのも、たぶん私のせいではなく、脳の糖分が足らないせいだろうね」
「またワケわからないことを言って…」
平子と呼ばれた女性は、教授の手から、チョコを取り上げたくなる衝動をおさえた。
「だいたい荷物が多すぎですよ。機材ならまだしも、おやつとか趣味のものとか…しかも、か弱い女性に運ばせてるの、わかってますか?」
「もちろんだよ。けれど今は君に、謝罪する暇もないんだ。この観察で最も重要な、巣立ちの直前なんだからね。泊まり込んででも、私が現場を押さえにゃならない」
「(カップラーメンのお湯を沸かす暇はあるのに?) 私の貴重な夏のバカンスが冬休みにならなきゃ、何も文句は言わないんですが…」
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