1. ハヤブサ

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そうやってクレームを出す時に限って、教授の注意は都合よく、望遠鏡とPC直結のモニタに移る。 わかっているのか、いないのか。黒木教授はとぼけた顔で、こちらに振り向いた。 「ん? 何か言ったかい?」 「いいえ! なんっにも! それで、何か新しい絵は撮れましたか?」 教授は縦型グリップが付いた、頑丈そうなデジタルカメラを取り出した。おもむろにプレビューモニタをONにする。 平子は映し出された四角い映像の中に、羽を広げて飛翔する猛禽の姿を認めた。 ハヤブサ目、ユキハヤブサ。 体長は50センチ程だが、羽を広げれば1メートルよりも大きく見える。 腹部に模様を持ち、翼が黒い大半のハヤブサと違い、この種は全身がどこもまでも白い。 それだけでもかなり珍しい種なのだが、さらにこの鳥は自身の存在を際立たせる特徴を持っていた。 それは彼らの目の周りを覆う、赤いくまどり模様だった。なぜか顔のこの部分だけに、真紅の毛が生えているのだ。 さらにこの模様に最後の仕上げをするように、両目の目元から、涙のような線が赤い筋となって、頬の上まで伸びていた。 この印象的な装飾に、鳥類学者たちは夢中になった。そして――敬愛をこめて――エジプトの神にちなみ「ホルスの目」と呼んでいた。 つまりこの特徴こそ、ユキハヤブサそのものだった。     
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