7人が本棚に入れています
本棚に追加
そうやってクレームを出す時に限って、教授の注意は都合よく、望遠鏡とPC直結のモニタに移る。
わかっているのか、いないのか。黒木教授はとぼけた顔で、こちらに振り向いた。
「ん? 何か言ったかい?」
「いいえ! なんっにも! それで、何か新しい絵は撮れましたか?」
教授は縦型グリップが付いた、頑丈そうなデジタルカメラを取り出した。おもむろにプレビューモニタをONにする。
平子は映し出された四角い映像の中に、羽を広げて飛翔する猛禽の姿を認めた。
ハヤブサ目、ユキハヤブサ。
体長は50センチ程だが、羽を広げれば1メートルよりも大きく見える。
腹部に模様を持ち、翼が黒い大半のハヤブサと違い、この種は全身がどこもまでも白い。
それだけでもかなり珍しい種なのだが、さらにこの鳥は自身の存在を際立たせる特徴を持っていた。
それは彼らの目の周りを覆う、赤いくまどり模様だった。なぜか顔のこの部分だけに、真紅の毛が生えているのだ。
さらにこの模様に最後の仕上げをするように、両目の目元から、涙のような線が赤い筋となって、頬の上まで伸びていた。
この印象的な装飾に、鳥類学者たちは夢中になった。そして――敬愛をこめて――エジプトの神にちなみ「ホルスの目」と呼んでいた。
つまりこの特徴こそ、ユキハヤブサそのものだった。
最初のコメントを投稿しよう!