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4. 最後の日
黒木教授がビニールの中から菓子パンを出す音が、耳障りにテントの中に鳴り響く。
もうこれで何個目だろうか。その答えは彼の背後にある、ゴミ用のビニール袋をひっくり返せば、分かるのだろう。
しかし平子には個数を調べる気も起きなければ、教授につられて湧いてくる食欲もなかった。
室内のガサガサという雑音に加え、テントの外に吹きすさぶ風切り音が激しい。けれど助手の口から自然発生的に漏れた諦めの溜息は、なぜか黒木教授の耳にしっかりと届いていた。
「平子くん。落ち込む気持ちはわかるが、食べれる時には何か食べておいた方がいいぞ」
黒木教授は視線を合わせずに忠告した。彼は食べかけの惣菜パンの残りを喉に押し込んだ。
「あんな事があった翌日に、よく普通に食べられますね」
クチャクチャと口を動かす先生の様子を見て、平子の表情がさらに暗くなった。
「あんな事って?」
「あれ以外に無いでしょう! 巣立ちの失敗の事ですよ!」
平子は気色ばんだ。
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