5-3.新たな火種に水を差す

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 一介の傭兵に甘んじているが、ラユダの能力は高い。すでに滅んではいるが、他国の侯爵家の跡取りであった過去を持つ。教養レベルは比して高く、武術の腕前も相応だった。  偶然だが、亡きチャンリー前公爵の馬車が襲われたところを助けた縁で、ショーンとは幼馴染の関係なのだ。すでに6年近く一緒に過ごしたことで互いに考えを共有し、敬語もなく互いを呼び捨てる仲だった。物騒な戦略の話も、戦術論も、彼らは似た思考を持つ。  撃てば響く存在の肯定に、ショーンは眉を顰めた。 「次の戦にウィリアムを出せば、エリヤが危ない」  優秀な騎士であり、国内最高指揮官の彼は攻め込まれれば動くだろう。首都や城の警備はショーンやエイデンに割り振られる。普段ならばそれでよいが、今回は悪手だった。足元を掬われかねない。執政であるウィリアムと情報を共有する必要があった。 「城へいく」 「わかった」  付いて来いと言われないが、供をするつもりでラユダは紅茶を飲み干した。すこし冷えたお茶は薄い色に反し、いつもより苦かった。
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