5-10.死神が支配する赤

2/4
前へ
/86ページ
次へ
 赤い絨毯が美しい謁見の間に続く中庭で、ようやく敵と遭遇した。庭の薔薇を散らしながら走る鎧姿の騎士を一撃で沈める。掛け声も気合も必要なかった。  実力が違いすぎるのだ。戦場で磨いたウィリアムの剣は鋭く、無駄のない美しさで振りぬかれる。その先で触れたものを切り裂き、鎧の間に差し込むようにして敵の命を奪う。そこに躊躇はなかった。 「エリヤ…」  ここまで入り込まれているなら、エリヤは謁見の間にいるだろう。国王であることの証である王冠を載せ、大きな深紅のローブを纏い、玉座に座っているはずだ。  逃げていて欲しい。無様でもいいから、逃げてくれたら……願う反面、彼がそうしないことを誰よりも理解していた。  逃げて生き残るより、彼は国王として責務を果たそうとするだろう。  走り抜けた廊下の先、謁見の間に続く扉の前で近衛兵が敵と剣を交えていた。 「黒の死神だ! 手柄を立てろ」  後ろから駆けつけたウィリアムに気付くと、指揮官らしき男が声を上げる。 「おれが一番手柄だ! うぉおおお!」  己を鼓舞するように品のない叫び声を放つ口へ、無造作に剣を突きたてた。一番大柄な男の絶命を確認する暇ももどかしい。男の腹に足をかけて、剣を引いた。赤い血に汚れた刃を、無造作に黒いローブで拭う。 「さっさと来い」     
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

100人が本棚に入れています
本棚に追加