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赤い絨毯が美しい謁見の間に続く中庭で、ようやく敵と遭遇した。庭の薔薇を散らしながら走る鎧姿の騎士を一撃で沈める。掛け声も気合も必要なかった。
実力が違いすぎるのだ。戦場で磨いたウィリアムの剣は鋭く、無駄のない美しさで振りぬかれる。その先で触れたものを切り裂き、鎧の間に差し込むようにして敵の命を奪う。そこに躊躇はなかった。
「エリヤ…」
ここまで入り込まれているなら、エリヤは謁見の間にいるだろう。国王であることの証である王冠を載せ、大きな深紅のローブを纏い、玉座に座っているはずだ。
逃げていて欲しい。無様でもいいから、逃げてくれたら……願う反面、彼がそうしないことを誰よりも理解していた。
逃げて生き残るより、彼は国王として責務を果たそうとするだろう。
走り抜けた廊下の先、謁見の間に続く扉の前で近衛兵が敵と剣を交えていた。
「黒の死神だ! 手柄を立てろ」
後ろから駆けつけたウィリアムに気付くと、指揮官らしき男が声を上げる。
「おれが一番手柄だ! うぉおおお!」
己を鼓舞するように品のない叫び声を放つ口へ、無造作に剣を突きたてた。一番大柄な男の絶命を確認する暇ももどかしい。男の腹に足をかけて、剣を引いた。赤い血に汚れた刃を、無造作に黒いローブで拭う。
「さっさと来い」
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