5-11.責務とは身を縛る鎖に似て

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 シュミレ国の近衛兵が与えられる揃いの銀剣は、かつて飾り以上の意味を持たなかった。しかしウィリアムが騎士団長に就任してから、実用性がある鋼の剣を持たせている。磨き上げられた剣の刃は鋭く、咄嗟に剣で受けようとしたウィリアムの肋骨下を滑るように入り込み、背から腹へと突き抜けた。  己の腹から生えた剣を反射的に掴む。鋼の剣を奪うために腹部に力をこめて剣を拘束した。引き抜けない剣を諦めた男が手を離したところで、後ろに一歩足を引く。  エリヤの悲鳴じみた呼び声が聞こえ、同時にエイデンの制止が重なった。最愛の人は無事で、その隣には信頼にたる友人がいる。何も心配はなかった。  ダンスのように引いた右足を軸に身体を捩じる。激痛に呻きが零れそうになり歯を食いしばった。ここで痛みに動きを止めたら、何も出来なくなる。エリヤを守ると誓った身で、敵をこのまま許す気はなかった。ぎりりと硬い音を立てた歯で痛みを散らし、左腕の剣を大きく振る。  鎧の隙間を縫う形で叩き付けた刃が食い込み、倒れた男を足で踏みつけた。普段は護身用に使う短剣を引き抜いて、足元で喚く男の首へ投げつける。身体が自由に動いたなら、しゃがんで首を切り裂いたのだが……背から腹に抜けた剣が動きを阻害していた。  最前線に臨むため着こんだ鎧と、突き立てられた剣が干渉してしゃがむ行為を妨げる。投げた短剣が突き刺さったのを確認し、踏みつけていた男から足を引いた。よろめく身体が無様に倒れる前に、謁見の間の扉に寄りかかる。     
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