5-12.宮廷医師の手荒い治療

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 血を失って冷えた手を、温かな手に包み込まれた。視線を落とした先でエリヤの白い手が、左手を掬い上げて強く握る。安心させるために握り返した。 「ウィル……っ」 「ごめん、な。泣かせて」  周囲に聞こえない声量で囁いて、右手を持ち上げた。エリヤの涙を拭ってやろうと思ったのだが、身を捩った痛みに動きを止める。 「動かないで。陛下はしっかり手を握っていてくださいね。誰でもいいから、閣下が動かないように押さえなさい」 「はっ」  近衛兵が一人近づき、手前で己の武器をすべて落とした。鎧、短剣、剣、すべてを外して床に並べる。害意や反逆の意がないと示すつもりだろう。戦時中にのみ許される簡易服を纏った男は、ウィリアムの右肩を押さえた。 「失礼いたします」  医師バッグの中から取り出した道具を丁寧に並べ、確認していたエイデンが酒で器具を消毒していく。濃厚な酒の匂いが周囲を満たした。中の中央より僅かに左にそれた位置から、右わき腹へ抜けた傷を確かめ、無造作に酒瓶の口を切って傷の上に注いだ。 「うっ……」 「あ、痛むよ。これでも噛んでおいて」  暴挙と激痛に歯を食いしばって声を殺したウィリアムの手に力が篭もる。握るエリヤが心配そうに眉を寄せた。先に言えと睨みつけるウィリアムの鋭い視線を流して、エイデンは裂いた布をウィルの噛み締めた歯の間にねじ込む。     
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