5-13.失う恐怖は傷より深く

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5-13.失う恐怖は傷より深く

 切り裂いた背の痛みに叫びそうになり、掴んでいる手に気付いて声を殺した。いっそ気絶すれば楽になるのだろうが、最愛のエリヤを戦場に置いて気を失うくらいなら痛みを我慢する。  エリヤの手を強く握りすぎないよう注意しながら、大きく息を吐いた。吸い込むタイミングを待ってエイデンの手が剣を引き抜く。激痛に強張った身体が倒れかけたとき、ようやっと剣が抜けた。 「ぅ、ッ!」 「よし、すぐに傷の洗浄して消毒。バッグから白と茶色の瓶を1本ずつ出して」  背を向けて守りを固める騎士の間から、侍女が「はい」と声を上げて手伝いに名乗りをあげる。王宮侍女の制服を着た少女は、以前に見かけたことがあった。エイデンはバッグを指差して次の指示を出す。 「青い瓶の中身をガーゼにかけたもの、それから縫合具を用意」  真っ赤な血が溢れる傷を洗浄し、消毒していく。傷口にガーゼが触れるたび悲鳴が零れそうになるが、噛み締めた布で声を殺した。麻酔を使わないのは、まだ城内が戦時中だからだ。敵がいる場所で処置する際に麻酔を使えば、いざというときに身体が動かない。     
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