5-13.失う恐怖は傷より深く

2/3
前へ
/86ページ
次へ
 ウィリアムの性格上、麻酔を提案しても断られることをエイデンは知っていた。以前から治療時に麻酔を拒む男に、いまさら尋ねる手間を省いただけだ。 「ウィリアム、縫合するから動かないで。陛下。しっかり彼の手を握っていてくださいね」 「……わかった」  麻酔なしの縫合は想像を絶する痛みをもたらす。本当なら麻酔を進めたいエリヤだが、以前も断られてしまったので口にしない。危険がない場所でも守れないことを恐れる男が、戦場となった城内で意識を手放すはずがないのだ。 「ウィル」  頷くウィリアムの額に浮かんだ汗を、解いたスカーフで拭う。エリヤの手は冷たくて、発熱したウィリアムの肌には心地よかった。本来ならばエリヤの方が体温が高いのだが、現在は発熱で逆転している。ひんやりする手で、何度も汗を拭う子供は泣き出しそうな顔だった。  大丈夫だと慰めてやりたいが、何分にも口に咥えた布を吐き出すわけにいかない。呻き声を布に吸わせながら、エイデンの治療が終わるのを待った。丁寧に細かく縫ってくれるのは、嫌がらせではないと思いたい。 「…ふぅ、終わりです。動いても開かないよう、細かく縫いましたよ」     
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

100人が本棚に入れています
本棚に追加