5-14.逃げるなら簡単だけどね

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5-14.逃げるなら簡単だけどね

 国王を囮に敵をおびき寄せる。普段なら一蹴されて終わる作戦だが、すでに城内に敵が侵入している状況では有効だった。ましてや国王の隣に、執政であり手負いの騎士がいる。  国王の代理権をもつ執政と、少年王を同時に討てるなら――シュミレ国の中心を刈り取るチャンスだった。 「死守せよ」  端的な命令は、誤解や曲解が生まれる余地がない。剣を捧げて一礼する親衛隊の騎士は一様に兜を脱いでいた。敵が城内に入り込んだ状況で、もし親衛隊の鎧を奪われたら致命的なミスに繋がりかねない。頭部を危険に晒しても、国王から向けられる信頼を得るための決断だった。 「僕のところですべて食い止めるけど、万が一があるからね」  エイデンは諦めの口調で告げる。自軍の兵を配置したエイデンは、先ほどまでウィリアムの説得を試みていた。国王と共に、謁見の間の奥にある通路からウィリアムを逃がそうとしたのだ。あれだけの傷を負ってしまえば、いくら国内最強の名をもつウィリアムでも厳しい。  動いて傷が開いたり、大量の出血を招いたら死を覚悟するしかなかった。それ故に少年王と教会へ後退するよう頼んだのだが……結果は、当然ながら徒労に終わる。     
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