5-14.逃げるなら簡単だけどね

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 ゼロシア領を任せたアスターリア伯爵は歴戦の勇士だ。戦略に長けたショーンと組めば、攻め込んだラシエラ国を押し戻すのに2日もあれば十分だろう。彼らが戻るまで教会に立て篭もればいいというエイデンの案は、2人にそれぞれの理由で却下された。  国王である責任を果たそうとするエリヤは、国民を置いて安全な場所に逃げ込むことを良しとしない。教会は聖域とされ、各国にある治外法権とされてきた。宗教は国政に関与せず、国政も宗教を弾圧しない。取り決めに従い、戦時中であっても教会への攻撃は認められなかった。  そのため教会も亡命者を匿うことはしない。しかし例外があった。まず聖女となったリリーアリスの存在だ。彼女が望めば、教会は全力をあげて願いを叶えようとするだろう。予言の力を持つリリーアリスを生んだユリシュアン王家は、教会の中で特別な意味がある。  ウィリアムも青紫の瞳をもつため、教会の保護対象だった。騎士であり執政であっても、傷を負った保護対象が転がり込めば、教会はその懐に抱いて護ろうとする。彼ら2人ならば教会の庇護を受けられるのだ。これ以上安全な逃げ場は存在しなかった。  エイデンが教会への後退を申し出た行為は、臣下として最良の案を提示したことになる。 「わかってる。エリヤは絶対に護るから」 「君が死んでも大変なんだから、きちんと自分も守って欲しい」  友人の言葉に目を見開き、ウィリアムはすぐに笑みを浮かべた。 「ああ、今回は任せる」     
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