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額に浮かんだ汗を、手首に結んだスカーフで拭う。心配したエリヤが結んだスカーフは、すでにしっとり汗で濡れていた。傷口がもたらす激痛をやり過ごしながら、ウィリアムは頭の中で計算を続ける。
通常なら2日かける作戦を、ショーンは1日で終えるはずだ。彼が駆けつけるまで、あと半日ほど持ち堪えれば助かる。不安を見せることなく玉座に座る愛しい王を、これ以上危険な目にあわせたくなかった。
「エリヤ」
近くにいる親衛隊は2人の関係をうすうす勘付いているため、国王の名を呼び捨てた執政に驚くことなく剣を構えていた。彼らに心の中で礼をいい、ウィリアムは長身を屈めて膝をつく。痛みを表情に出さず、青ざめた顔で穏やかに口を開いた。
「この戦が終わったら、ゆっくり休もうか」
「姉上やドロシアも呼んでやろう」
「…そうだな。それがいい」
エリヤの足元にひろがるマントの端を持ち上げ、見せ付けるように唇を当てる。不満そうに眉を顰めた王の表情に苦笑し、今度は玉座の肘掛に置かれた手を持ち上げて甲に接吻けた。それでも気に入らないと睨む恋人の様子に、身を起こして唇を重ねる。乗り出した身は引き裂かれるように痛み、互いの唇は乾いていた。
心地よさの欠片もないキスをした2人は、緊迫した場に似合わぬ柔らかな笑みを交わした。
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