100人が本棚に入れています
本棚に追加
5-15.赤い棘の森とレモン
謁見の間で剣を抜く機会など、通常はなかった。ここまで攻め込まれた時点で負けとも言える。入り口の扉前で繰り広げられる戦闘を、国王はただ見守っていた。
逃げる必要はないと示すためだけに――少年王は動かない。
国王が玉座に生きてある間、シュミレ国は滅亡しない。父王から受け継いだ際にサイズを調整しなかったせいでずり落ちる王冠を、エリヤの隣に控える執政がそっと押さえた。
「面倒だ、預ってくれ」
「陛下。今は戦時中ですので」
象徴としての役目と割り切って、せめて手元に持っていてくれと執政が苦笑いする。権威や金に執着がないのは構わないが、無頓着に預けられそうな王冠が哀れだった。貴族や他国の王族にしてみたら、シュミレ国の王座は喉から手が出る優良物件だ。その地位を示す王冠を執政に預けるのは問題があった。
国王の代理権を持つ執政が王冠を預るのは、国王に万が一があった場合のみ。そして当代の執政は国王を守って命を散らす騎士として誓いを立てている。王冠を預るような場面は考えられなかった。
「……騎士の損害は?」
傷ついた親衛隊の騎士を見つめる国王の乾いた声に、ウィリアムは淡々と返した。
最初のコメントを投稿しよう!