5-2.とろとろに甘やかしたくて

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 甘える相手を失くしてしまった。ウィリアムと出会うまで、彼は本当に孤独だったのだ。こうして執政、侍従、騎士の地位を得て傍にいても、具合の悪さすら隠してしまう。きっとエリヤ自身に自覚はないだろう。  具合の悪さも自覚がないだけで、頼れないから…と考えていない。しかし行動は正直で、どこまでも己に厳しく孤独に慣れていた。  手を伸ばして黒髪を何度か撫でれば、その手に擦り寄ってくる。まだ子供なのだ、甘えて甘やかされて、自由に我が侭に振舞える年齢なのに。 「頼っていいんだぜ? オレがまだ甘やかしたりないのかな」  黒髪に触れた手をぎゅっと握りこまれて、その必死な様子に笑みが漏れた。もっと我が侭を言わせてやりたい、もっと自由にしてやりたい。命じろと言わなければ、傍にいて欲しいと願うことも躊躇う子供が可哀相で、心の底から愛しいと思った。  右手をエリヤに預けたまま、器用に左手で書類を捲る。さっと目を通してバツを書いて避けた。次の書類を確認し、内容を頭の中で整理する。  一度見た風景や人物を忘れないウィリアムの能力は、先日の書類を記憶から引っ張り出した。照らし合わせた書類の矛盾点を指摘して、サインせずに横に積んだ。     
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