5-1.それは熱に似たなにか

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5-1.それは熱に似たなにか

 シュミレ国――豊かな海と山脈の間で繁栄する大国である。先々代は戦が多く苦労したが、先代は外交能力で領土を広げた頭脳派だった。そして、今代の王はまだ少年である。 「ウィル、これを…」 「手配する。それより具合が悪いんだろ?」  少年王が差し出した書類の束を受け取って横に置き、ぞんざいな口調で手を伸ばす。黒髪に縁取られた象牙色の肌は赤みがさし、発熱していること確定だった。  触れた肌は熱く、眉を寄せたウィリアムが執務机に向かう子供を抱き上げる。腕の中でぐったりと身を預ける王は、熱い吐息を漏らした。首筋にかかった息が想定より熱いことで、ウィリアムは溜め息を吐く。  以前から体調を崩しやすい子供だった。なのに不調を隠して執務を行おうとする。ある意味、国の頂点にたつ人間としては勤勉で尊敬に値するが、侍従であるウィリアムから見れば迷惑な話だった。  人なのだから具合が悪い日もある。それを隠して悪化させるより、早めに休養して欲しいと思うのだ。部下としてはもちろん、恋人としても同意見だった。 「平気だ」 「平気なわけないだろ、ほら、ミスってる」  指差して署名した書類の一文を示せば、読み直したエリヤが溜め息を吐いた。     
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