5-3.新たな火種に水を差す

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5-3.新たな火種に水を差す

 ショーンは執務机に行儀悪く腰掛けた。チャンリー公爵家は、現在シュミレ国唯一の公爵家だ。他家は取り潰されたり断絶していた。王家に次ぐ地位を確立した若き当主は、国王の従兄弟にあたる。  黒髪はシュミレ国王族の特徴のひとつだ。やや長い髪を後ろで結び、きつい印象を与える黒瞳を細めて、手元の書類をじっくり読み返した。 「奇妙だな」 「ショーン、こっちへ座れ」  長い前髪で顔を半分ほど隠した青年が、行儀の悪さに溜め息を吐いた。本来ショーンの礼儀作法は洗練された、公爵に相応しい振る舞いができる。だが騎士として己を鍛える中で、周囲の粗雑な振る舞いも覚えてしまった。  他者がいれば気をつけるが、ラユダしかいない室内でショーンは気遣う必要を感じていない。長い足を組み直し、再び書類を睨みつけた。 「ラユダ、また戦が近いぞ」 「理由を聞こう」  肯定も否定もしないラユダは、他国から流れてきた傭兵だった。現在はシュミレ国の部隊に在籍しているが、それもショーンからの要請に応じたもので、本人の感覚は個人的な私兵に近い。穏やかな緑の瞳に促され、ショーンは机から降りてソファに腰を下ろした。     
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