86人が本棚に入れています
本棚に追加
第一部(その三) クンド警団<モスグリーン>
悪霊は、ゆっくりとペルスに近づくと、大の字になって彼に覆いかぶさった。ペルスは声をあげず、身動きもしなかった。
母親は、息子がクンド警団の団員を焼き殺す様を、黙って眺めていた。髪は乱れ、目は充血し、目の下にはクマができている。両手は団員の血に染まり、右手に握られた包丁もまた血まみれだ。
ぼんやりしていた母親の耳に、何者かの足音が届いた。母親が音の方向に顔を向けると、誰かが走ってくるのが見えた。三人いる。全員、銀色のマントを着ている。男が二人に、女が一人。男のうち一人は紺色のズボンだが、あとの二人はモスグリーンのズボンを着用している。
クンド警団に詳しくない母親でも、常識の範囲で知っていた。紺色は耐性Bの団員。モスグリーンは耐性Aの団員だ。
女は二十歳ほどの年齢に見えた。ウェーブのかかった豊かな長い金髪を、ツインテールに結っている。肌は真昼の月のように白く、瞳の色は夏空のような青。美女と呼ぶにふさわしい姿かたちをしている。
紺色ズボンの男も、年齢は女と大差ないように見えた。褐色の肌に、ショートマッシュのブルネット、瞳の色は、左しか確認できないが黒だ。
左しか確認できない、というのは、顔面の右側、鼻孔より上部を革製のマスクで覆っていたからだ。目に当たる部分に穴はあいているが、暗くて瞳の色は確認できない。
残りの一人は、もう走るのをやめて歩いていた。前者の二人よりいくらか年上に見える。肌の色は象牙色で、髪も瞳も黒々としている。髪は全体的に短いが、前髪は目にかかる長さまで伸びている。
「ああっ!」
女・・・名をミティという・・・がぎょっとしたような声をあげた。
最初のコメントを投稿しよう!