プロローグ(前編) シン

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プロローグ(前編) シン

 シンは、空腹に耐えかねて外に出た。  今年で十二歳になる。学校には行っていない。本来なら学校に通う年齢だが、二年前に実の母親に引き取られてからは、通わせてもらっていない。  性別は男だが、髪は肩より下まで伸びている。理髪店に行く金はないし、自分で切るのも面倒くさく、伸びるままにしている。  空腹でふらふらとしながら、近所のスーパーまでやってきた。数人の老婦人が、シンに目を留めて、しかめ面をする。だがそれだけで、声もかけずに通り過ぎる。  シンは、ポケットからくしゃくしゃのビニール袋を取り出した。それから、各棚を回り、人目がないことを確認しながら、パンとペットボトルのジュースをビニール袋に突っ込んだ。  そのままスーパーの出口に向かう。振り返らない。表情も変えない。  出口まであと一歩のところで、上から右肩を押さえられた。シンは、立ち止まり振り返った。表情は無表情のままだ。  老爺がシンを見下ろしていた。見下ろすと言っても、老爺の身長もシンとさほど変わりはない。頭髪はほぼ無く、白い毛が何本か頭皮に張り付いているだけだ。シミのついたスーパーのエプロンを着て、眉間に皺を寄せてシンをじっと見ている。 「また、お前か」  老爺は、嘆かわしそうにため息をついた。シンの右肩に乗せた手に力を込める。 「盗ったものを返せ。そして、こっちに来い」  シンは答えなかった。ビニール袋を自分の胸元に引き寄せる。  老爺の声に苛立たしさが混じる。 「早くしろ」  シンは答えなかった。が、代わりのように腹の虫が鳴った。  老爺は、シンから手を放した。両手に腰を当てて、頭を横に振りながらため息をついた。     
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