第一部(その一) 耐性

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 耐性がなくても、悪霊退治に志願する者は多かった。運動能力や心理テストの試験が行われ、合格すれば悪霊退治への参加が認められた。だが、死の覚悟を認める(すなわち、死んでも政府は一切の責任を負わない)誓約書へのサインを余儀なくされた。  この十五年間で、相当の数の悪霊が退治された。  が、悪霊の源は人間ゆえ、昨日まで人間だったはずの生命体が、今日、悪霊と化してしまうことがたびたびあった。それゆえ根絶には至らなかった。  それでも、悪霊退治をやめるわけにはいかなかった。  なぜなら、悪霊が人間に戻るケースは、十五年間で一度もなかったからだ。  悪霊は、家を焼き、街を焼き、そばにいる人間を餌食とする。だから、悪霊は必ず殺すしかなかった。  いつ、誰が、どういうきっかけで悪霊と化すのかは、まったく解明されていなかった。唯一分かっているのは、あまりに幼い子供は悪霊にならないこと。だが、五歳で悪霊と化したケースもあり、条件を見極めるのは至難と考えられた。  同じく、悪霊への耐性に関しても研究が行われた。耐性の有無はなにで決まるのか。血液成分やDNAの検査から、脳波、家柄、生活環境など、考えられるあらゆる条件についてできる限りの子細な調査が行われたが、結局いまだに規則性は見出されていない。  一つだけ分かったことは、悪霊への耐性は生まれながらに決定していて、それ以上良くも悪くもならないらしいということ。鍛えて向上されるものではなく、年齢を重ねて衰えることもない。悪霊の出現から十五年なので断定はできないが、今のところ例外はなかった。
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