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奇妙な光景だった。水道がない今、井戸がある家というのは非常に恵まれている。だが、これでは、水を容易に汲み取ることができない。井戸に異物が混入するのを避けるためなら、ブロックはせいぜい一個で十分だ。
「ねえ、ペルス、これって、まるで・・・」
リオの言葉を引き継いで、ペルスが言った。
「ああ。何かをここに閉じ込めてる・・・としか思えない」
ペルスは、井戸に向かって手をかざした。特に熱は感じない。だが、煤はここで途切れており、ここから先、庭の草が燃えた形跡はない。
「井戸の中を調べよう。それしかない」
「えーっ!」
リオが目を丸くした。
「このブロック、全部どかすの?」
「そうするしかないだろ」
「えーっ・・・悪霊と対面する前に、疲れて死んじゃうよー」
ペルスは、アイスガンをホルスターに戻した。一つずつ、黙ってブロックを地面に下ろす。リオは、最初の二個は半目で傍観していたが、肩をすくめるとアイスガンを収め、ペルスと同じことを始めた。
ブロックはすべて片付けられた。あとは、木製の蓋だけだ。これをどかせば、井戸の中を調べることができる。
「俺が蓋をどかす。一、二の三で行くぞ」
「オッケー」
リオは、井戸に向かってアイスガンを構えた。こめかみから頬、首筋まで汗が伝う。
「一、二の・・・三!」
ペルスが、がばりと木製の蓋を持ち上げた。
間を置かず、井戸から何かが飛び出した。凄まじい熱風を伴っている。それは、リオに攻撃や防御の隙を与えず、正面から覆いかぶさってきた。
リオが狂ったような悲鳴をあげた。ペルスは、井戸の蓋を持ったまま叫んだ。
「リオ!」
悪霊の大きさは、成人男子の平均と同じくらいだった。リオの力では、跳ねのけることは無理だ。
だが、アイスガンで撃退することはできる。マントを羽織っているのだから、一分以内に仕留めればいい。
と、ここまで瞬時に考えて、ペルスは、地面に投げ出されているリオの右手付近を見た。
ぞっとした。
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