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ミティは、アイスソードから手を離した。柄部分に変化はないが、鍔から下は悪霊の熱により溶かされ、原形をとどめていない。アイスソードは、常に使い捨てであった。
「あ・・・あああ・・・」
息子の死を認めたためだろうか。母親の手から力が失われた。ルングはそれを知ると、母親の手に込めていた力を緩めた。あごを引き、視線を落としてつぶやく。
「任務とはいえ、本当に残念です。申し訳ありま・・・」
ルングが最後まで言う前に、母親が猛然とルングの手を振り払った。血走った眼でルングをにらみつけ、躊躇なく包丁で切り付けてくる。
「貴様ぁぁぁーーーーー!」
「ルング!」
母親の咆哮と、ミティの声にかぶせて、銃声が鳴った。
一発、二発、三発。
三発とも、母親の体にめり込んだ。こめかみ、頬、それにあばらの間。
母親は、三箇所から血と肉片を飛び散らせながら、横向きに吹き飛んだ。そのままぴくりとも動かない。即死だった。
ミティとルングは、弾の飛んできた方向に顔を向けた。
自分たちのグループの隊長・・・名をシンという・・・が、まだ煙のあがる銃を片手に歩いてくるのが見えた。
「シン隊長!」
「ミティ、よくやった」
「あ・・・はい!」
ミティは、両足を揃え、右手を挙げて敬礼をした。
「状況を確認して、周囲を調べろ。戻ったら報告書を書くからな」
「了解です!」
ミティは、きょろきょろと周囲を見回し、井戸の蓋に気付いて持ち上げ、しげしげと眺め始めた。
「ルング」
「あ・・・はい!」
ルングは、びくりとして返事をした。まだ呆然としていて、顔に浴びた返り血も拭っていない。
「怪我はないか」
「あ・・・はい。あの、ありがとうございます」
「礼はいらねえ。だが、次からは自分でやれよ」
ルングは、すぐに返事をしなかった。その表情に迷いが見て取れる。
シンは、髪と髪の隙間から、ルングをじいっと見つめた。
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